今の農政は、「農業で地域を守る」意識が弱い

玉木雄一郎*1(以下、玉木)私はずっと農政に携わってきましたし、田名部さんも以前、農林水産大臣政務官をされていましたね。その立場から言うと、安倍政権になってからの農政はおかしいと思うんです。現場を無視して、何か改革をやったふりをしているように見えます。
こくみんメモ*1
玉木氏の実家は香川県旧大川郡(現さぬき市)寒川町の兼業農家で、祖父は農協の組合長という環境で生まれ育った。現場の感覚を知り抜いた、“政界きっての農政通”として知られている。

田名部匡代(以下、田名部) もう本当にその通りで、現場の声はまったく無視されています。「規制改革推進会議*2」なる機関が現場の状況や実態、それまでの文化や歴史、すべて無視した政策を政府に提言している。しかもそれがすべて通っている、というのが現状ですね。

こくみんメモ*2
経済社会の構造改革を進める上で必要な“規制の在り方の改革”に関する基本事項を、総合的に調査・審議し、内閣総理大臣に意見を述べる機関。

玉木農業にはふたつの側面があると思うんです。ひとつは、稼いで高く売る、できるだけたくさんの人に売るという産業政策としての農業。もうひとつは、地域を成り立たせていくものとしての農業です。農業は、土地や地域の維持に非常に貢献しています。そんな、地域政策としての農業が、今すごく弱くなっていると思いますね。

田名部効率や生産性も大事なことだけれども、そちらにばかり目が向いていますよね。改革の名の下に規制を取っ払って、企業が参入して儲かりやすくすることに重きが置かれている。玉木さんがおっしゃった農業のふたつの側面、その両方が生き残るような環境を作らなければなりません。片方が潰れてしまったのでは、地域は成り立ちませんから。

古川元久(以下、古川) 今、人口減少と地方の高齢化*3が進んでいます。そういう中で、地域を守ってきた農業を廃らせてしまったら、完全に地域が崩壊してしまいます。日本の原風景といえば田園風景で、それを守ってきたのがこれまでの農業ですから。地方の疲弊をどう救うか、といった観点もしっかり持たないといけない。今、産業政策があまりに前に出過ぎていて、地域を守る意識が弱いと思います。

こくみんメモ*3
全国の市区町村の約半数が「消滅可能性都市」にあたる。これは、少子化や人口流出の増加によって、2010〜2040年までの間に20~39歳の女性の人口が5割以下に減少し、存続不可能となることが推計される自治体のこと。また、地方の高齢化率も上昇しており、最も高い秋田県で35.6%。2045年には大都市圏を含め30%以上が高齢化する見込み。

日本の農政は、世界に逆行している!?

玉木 私は、今の日本の農政は一言で言うと「周回遅れ」だと思うんですね。
今、世界では、自然を破壊していくような収奪型の企業型農業は限界があるということで、家族型農業に光が当たりはじめている。実際、国連では、「国際家族農業年*4」を設置するなどして、家族型農業への取り組みに力を入れています。日本はずっとそれをやってきたのに、そこから離脱して、企業型大規模型に向かっている。世界の農政のトレンドから見たら、周回遅れもはなはだしいと思いませんか?
こくみんメモ*4
国際連合が制定した国際年のひとつ。食料安全保障の確保と、貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たす「家族農業」に関わる施策の推進や知見共有を、加盟国・関係機関に促すもの。
田名部逆行しているんですよね、世界の流れと。種子法の廃止*5もその一例です。種を制するものは世界を制す、ですよ。国や都道府県が積み上げた知見を、海外を含めた民間企業に提供したり売り渡したりしていいのか、という問題もあります。
こくみんメモ*5
米や大豆など、主要作物の種子の売買・管理・保護などについて定めた法律。
種子生産は、長い歴史と品種改良などの絶え間ない研究の上に成り立っているため、種子は「公共の資産」であるという考えに基づき、種子法がこれを守っていた。
しかし、これが民間に開かれて外資が入ってくることで、特定の品種や知見が企業に囲い込まれるなど、「種子の私有化」が進むのではないかと懸念されている。
古川食というのは、いわば安全保障の一番の基本です。「腹が減っては戦はできぬ」じゃないけれど、食べるものについての安心・安全を、どう国として確保するのかは重要な問題ですよね。種子法は、まさにそのための法律だったんです。
玉木日本は食料とエネルギーの確保ができなくて、結果戦争に突入せざるを得なかった過去があります。だからこそ自国民を、自国の土地で作った食料でしっかり食べさせていくという基本方針——「食料安全保障」を、もう1回考えないといけません。
あと10年20年して中国を中心にどんどん食料需要が高まって来たときに、今みたいに「食料は買ったら済む」という話じゃなくなると思うんです。だから食料安全保障の観点が今ものすごく大切になっているのに、今の政治はそれから遠ざかっている。
田名部何度も大規模な自然災害があって、国の食料自給率も4割を切っている。玉木さんがおっしゃったように、食料安全保障の観点からどうやってそれを増やし守っていき、担い手を育てるのか。これは一体的に考えていかないといけませんね。
「どこかの国が、困ったときには食べ物を出してくれる」という構えでは、本当に危機的な状況を迎えるんじゃないかと思います。
古川農業は天候や災害にものすごく左右されるものだから、収穫の直前に台風などの災害が起きると、全部パーになってしまう。リスクが高い産業だからこそ、国がきちんとしたセーフティネットを作ってあげないと、生産している方たちはやっていけないですよね。

農業従事者が安心して営農を続けられる環境整備を

田名部この間、自給率が4割切ったということに対して、「でも人口も減ってるんだから」とおっしゃった人がいました。ですが今、第一次産業従事者の平均年齢というのは非常に高くなっているんですよ。
玉木66、7歳ですね。
田名部その方たちがなんとかふんばって食料生産をしてくださっている。「人口も減る」って言うけれど、その方々が一斉に農業を続けられなくなるような状況もくるわけですよ。そうしたら誰が食料を生産するのか、というのは本当に大きな課題です。
玉木やっぱり「安心できる食べ物を国民の口に届ける」というのは、政治の一番大事な仕事だと思います。若いお母さんたちと話をしていても、子どもたちに食べさせるものの安全性に、非常に不安を感じていますね。遺伝子組み換え食品や、肥育ホルモンを使ったお肉*6が入っているんじゃないか、と。自国の中で安心できる食べ物を作って、それを国民のみなさんに届ける仕組みをきちんと残すことが大切でしょう。
また、農業をしている方にとっても、営農を継続して、安心して息子や孫、後継者に堂々と引き継いでいける、あるいは継いでくれと自信を持って言えるような農業に、ぜひ変えていきたいです。
こくみんメモ*6
遺伝子組み換え食品とは、特定の遺伝子を組み込むことで、農薬耐性・害虫抵抗力など、自然とは異なる機能を持った形で生産される食品のこと。
肥育ホルモンとは、通常より短期間で肉牛などを大きくするために投与される、成長促進剤。特に北米産の畜肉でよく使われる。自然でない食品であるという認識から、アレルギーや自閉症など慢性疾患の原因になると考える人も多く、特に子どもを持つ親の間で不安が大きい。
田名部そうですね。よくみなさん「日本の農業は守られている」とか、「補助金がいっぱい出ているじゃないか」と言うんだけれど、まったくそれは事実じゃないんです。
玉木他の国はもっとしっかりしていますね。
古川ヨーロッパやアメリカは、ものすごく農業にお金を使っていますからね。
田名部民主党時代に、販売農業者に対しての所得補償(農業者戸別所得補償制度)*7を行いましたけれど、そうした食料自給率安定のための制度をもう1回作って、安心して生産活動してもらえる環境を作っていかなければならないでしょう。
こくみんメモ*7
米などの農産物の生産を行う農業者に対して、生産量が基準に満たなかった場合に、その差分に相当する交付金を補償する政策。作付規模の大きな農家ほどメリットを受けやすく、作物の安定生産に貢献するとして、農業者たちから支持を受けた。
玉木特に、お米などたくさんの面積を必要とするような土地利用型作物については、どうしてもコストが安く土地も広い途上国との競争では不利になってしまいます。そうすると、市場原理にだけ任せていると商売にならない。だったら一定の所得補償をしながら、日本の中でも土地利用型作物を続けていける仕組みをつくるべきです。所得補償制度は先進国には不可欠だと思うので、かつての制度を改良するべきところは改良して、ぜひ将来が見通せる農業をサポートしていきたいですね。

玉木雄一郎の新しい答え。

安全な食を届け、安心して農業を続けられる所得補償制度