「軽減税率」で得をするのは、“低所得者”よりも“高所得者”

玉木雄一郎(以下、玉木)今回の消費税増税は、どう考えますか?
田名部匡代(以下、田名部)私の地元である青森県では、地方での景気回復の実感というのはほとんどないです。
古川元久(以下、古川)日本経済は、また不景気に向かいつつあるんじゃないかと思いますね。世界経済にしても、米中の貿易戦争などが原因で、先行きは不透明です。そんな状況で本当に消費税を上げていいのか、という問題があると思います。
玉木 先日、国会でも取り上げましたけど、安倍首相が「実質賃金が上がっている」と言い続けてきたのが、統計の誤りによって実は2年連続マイナスかもしれないという懸念が出てきました。*1家計も厳しい中で、景気が悪くなって、増税もするのが本当にいいのかは、慎重に考えないといけない状況だと思います。
こくみんメモ*1
厚生労働省は、賃金の変動・残業時間の量など、国内の賃金や労働時間に関する統計調査を行っている。しかし、全数調査でこのデータを得るべきところを、厚生労働省は2004年から一部抽出調査としていた上、その結果生じた数字上の歪みを2018年1月から非公表で修正。その結果、数字上は2018年に賃金が急上昇したように見えるデータとなった。

田名部 それと、やっぱりわかりにくいんですよね、今回の「軽減税率*2」は。

玉木 そうですね。日本はこれまでに2回消費税を上げましたけど、今回初めて導入されるのが「軽減税率」です。食料品や生活必需品は税率をこれまでの8%に据え置くという内容ですが、お店側も消費者側も、どれが生活必需品にあたるのか、ややこしくてよくわからない。
ポイント還元*3」も、クレジットカードや電子マネーを使う人にはある程度還元するということなんですけど、これもわかりにくいんですよね。

古川大前提として、クレジットカードや電子マネーを使えるのは、中高所得者層。低所得者の方や非正規雇用者の方、高齢者の方、キャッシュレス決済のできる場所が少ない地方の住民は、どれだけこの恩恵を受けられるでしょう。
そもそも「軽減税率」は、低所得者対策という名目だったはずなんです。でも実は、低所得者よりも高所得者の方が恩恵が大きいんですよね。たとえばお肉でいえば、100g100円のお肉も、100g1,500円や2,000円もする霜降り肉も、どちらも食品ですから軽減になる。減税分の多くは、たくさん消費する、あるいは高級品を嗜好する高所得者の方たちの方がメリットがあるんです。
「軽減税率」の導入にあたっては、1兆円もの税収を使います。であるならば、それは低所得者層にちゃんと向いた内容でないといけない。

玉木 1兆円減税した分で、年収300万以下の方が恩恵を受けるのは、わずか1割*4ですね。今古川さんがおっしゃったように、ほとんどの減税分のメリットは中・高所得者にいくんですよね。

こくみんメモ*2
「軽減税率」について:2019年10月1日より実施予定の、消費増税に伴って導入される新しい仕組み。ほとんどの消費税率は10%に引き上げられるが、一部の生活必需品は「軽減税率」として8%に据え置きになる。軽減税率の対象品目は、酒類・外食を除く飲食料品や、週2回以上発行される新聞など。ただし新聞は、定期購読契約に基づく宅配新聞のみ対象で、駅の売店やコンビニ、電子版での購入は対象外となる。
こくみんメモ*3
ポイント還元について:消費増税以降、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済を使った場合には、購入額の2%もしくは5%をポイントで還元する施策。
こくみんメモ*4
消費税増税時に導入される「軽減税率」は、低所得者へのメリット極めて低く、中高所得者との格差を拡大する恐れがあると、玉木氏は指摘している。
「軽減税率」の導入で約1兆円の税収が減るが、年収別に「軽減税率」のメリットを見ると、全世帯の約3分の1を占める年収300万円以下の世帯には、1兆円のうち1割しかメリットがいかない計算となる。一方、年収500万円以上の世帯では6割。

「軽減税率」導入による消費税の負担軽減額は、年収200万円未満の世帯では約8,000円、年収1,500万円以上の世帯では約1万8,000円と、その差はかなり大きく、中高所得者が得をする仕組みになっている。

田名部ただでさえ所得の格差が広がってきている中で、苦しい人たちがさらに苦しめられるっていうことは、決してあってはならないし、より多くの人たちがちゃんと納得できるものにしていかなければならないですね。今のまま進めるというのは、まったく納得がいかないですし、公平性を欠いているように思います。

まったく果たされなかった、「身を切る改革」の約束

玉木もうひとつ、「ポイント還元」についても問題があります。実際に、青森県の商店街で、高齢者の方あるいは低所得の方がカードで決済して、お肉やお魚を買っていますか?
田名部買っていません(笑)。青森県では「あれは誰のための政策なんだ」「全然自分たちには関係ない話だ」「何の議論をしているんだ」と、批判の声をいっぱい聞きます。
玉木結局「軽減税率」も「ポイント還元」も、高所得の方にメリットがある内容になっているので、今回の消費税増税は、二重三重に格差を広げる税制になっている可能性が高い。これは大きな問題と言わざるを得ませんね。
古川本来税制とは、公平・中立で、経済活動に対して影響を与えず、わかりやすくあるべきです。「軽減税率」は公平でもないし、経済活動にも干渉するし、わかりにくい。最悪の税制だと思いますよ。
田名部安倍首相は「消費税引き上げ分は全部お返しし、お釣りが来る」と言っています。だったらそもそも、上げなければいいんじゃないでしょうか。
古川そうそう。国民を混乱させるんだったら、もう最初から上げないのが一番だと思います。
玉木忘れてはならないことは、増税の前に自民党は「議員定数の削減」などの行財政改革、要は身を切る改革をやるという約束をしていましたよね。でもそれが果たされていないどころか、むしろ議員定数を増やしている。自分たちの仲間の議席を確保した上でさらに増税というのは、私は権力の乱用だと思うし、こんな形で国民に負担を求めるのは筋が通らない。高齢化が進む中で必要なことだと納得しようにも、これではさすがに納得できないですよね。
古川「カンジョウ」の問題ってあるんですよ。「カンジョウ」にはふたつあって、お金の「勘定」と、気持ちの「感情」ですね。政治というのは、単にお金の「勘定」だけじゃなくて、「感情」の問題でもある。今回の政策は、「勘定」という意味では、入ってくる分より出る分の方が多いんだから、違和感がある。そして身を切る改革もやっていないわけですから、「感情」的にもとても受け入れらないものだと思います。

公平・中立で「納得感」のある税制を

玉木税制で一番大事なのは、やっぱり公平性ですよ。税金を好きな人はいないからこそ、公平であるとか簡素であるという原則が、とても大事なのです。
今回の「軽減税率」で本当に私が納得できないのは、食料品・生活必需品は税を安くしますよと言っておきながら、そこに新聞が入っていることです。しかも、家に届く宅配の新聞は8%で「軽減税率」なのに、まったく同じ内容の新聞を駅やコンビニ、電子版で買ったら10%だと。意味がわからないですよね。
これは、業界内で「自分のところだけは認めてくれ」と申し立てした結果です。そうやって権力に近い人や業界内だけ税金をまけてもらうようなことが横行すれば、税の公平性は著しく失われてしまうし、消費税増税に対して誰も理解・納得できなくなる。私は、これが一番の問題だと思っています。
古川これが通ったら、中小零細の事業者のみなさんは大変です。今までは売り上げから仕入れを引いて、残ったものに税率をかければ消費税が計算できた。しかし「軽減税率」が入ると、売り上げ・仕入れをすべて仕分けしないといけない。そうすると、中小零細の事業者で、たとえば家族経営の商店の場合、面倒になって「この機会にもう商売をやめてしまおう」となるかもしれない。廃業を促進することにもなるんじゃないかと思うんです。
玉木 「軽減税率」が導入されると、事業者はインボイス*5の発行が求められるようになりますが、免税事業者や中小零細企業などは、大変な手間になる。それこそ、今回の「軽減税率」は “廃業促進税制”になりかねない。特に地方の中小企業には大打撃を与える可能性がありますし、大きな問題を抱えた税制だと思います。
こくみんメモ*5
負担した消費税額を明記し、仕入れ先(元請け業者など)が発行する請求書や納品書。仕入れた商品等を販売した場合、販売額に基づいて計算する消費税額から、インボイス記載の消費税額を控除した額を納税することになる。売り上げが基準を下回る小規模事業者(免税事業者)はインボイスの発行ができず、結果として免税事業者から仕入れた場合に消費税の控除ができないことから、免税事業者が取引から排除される懸念がある。

玉木雄一郎の新しい答え。

消費税増税議論の前にまずは議員定数削減!